悪人 (ネタバレあり)

悪人 (ネタバレあり) - まにっき

映画のことを書いたので、続けて小説版のことも。小説は毎晩寝る前に一時間ずつ 1 週間ほどで読了。

映画版と小説版で共通するあらすじ

舞台は九州の地方都市。どこにでもいる保険外交員の女性三人組。映画では化粧も含めてどこにでもいる感じに仕上がっている。でもさすがに女優、検索して出てくる画像では美人。化粧や撮り方でこんなに変わるんですね。

主人公は『祐一』 (妻夫木聡)。たしか 27 か 28 歳。住所は寂れた農村(漁村?)。幼少時に母親に育児放棄され、祖母に育てられる。車にだけやたらお金をかけるタイプ。肉体労働系。小説でも映画でも長身のイケメン。口下手。

最初に登場した保険外交員の女性の内、殺される女性の名は『佳乃』(満島ひかり)。21 歳ぐらい。見栄っ張り。本当は身の周りに恋愛対象の男の影がないのに、周りの友人には男の存在を吹聴している感じ。容姿は中の上ということになっている。性格を象徴する台詞として、祐一に投げかける「私はあんたみたいなやつと付きあうような安っぽい女じゃない!」という感じのものが。祐一とは出会い系で知り合ってホテルへ行き、祐一からお金を受け取っている。

佳乃の両親。ごく普通に一人娘を愛している家庭。父の名は『佳男』。娘以外に子供はいない。

実家は高級な(?)温泉旅館を経営している増尾』(岡田将生)。大学生。わがまま。イケメン。金持ち。佳乃は好意を寄せているが、増尾は佳乃を欝陶しく思っている。車に乗り込んできてしばらくドライブしていた佳乃を、車から蹴り出し、山中に置き去りにする。その後、佳乃は祐一に殺される。

『光代』 (深津絵里) 登場。販売の仕事。田舎にいる普通の女性。確か 30 歳ぐらい。妹と二人暮らし。祐一とは出会い系で知り会う。最初のデートで誘われるままに一緒にホテルへ。小説と映画とでタイミングが違う気がするけど、光代は祐一に好意を持つ。祐一も光代に好意を持ったようだ。祐一が指名手配された後は一緒に逃亡する。

佳乃はなぜ祐一に殺されたのか。増尾の車に乗る直前、佳乃と祐一は会っていた。佳乃の別れ際の態度にむかついた祐一は、逆上し増尾の車を尾けていた。祐一は山中に置き去りにされた佳乃に衷心から乗せていってあげると言ったが、「お前にレイプされたと警察に言ってやる!」と言ってきたのでキレた。祐一はレイプはしていない。祐一は警察にそんなこと言われたら、自分は信じてもらえないと思ったらしい。蛇足ながらこの辺の展開は無理がある。物語を見ているときは入り込んでいるのでそれほど不自然と感じないが。

佳乃の父親、佳男は増尾が犯人であってほしい。なぜなら金持ちだから。出会い系で会うような胡散臭い祐一に自分の愛娘が殺されたと思いたくない。殺されるのなら増尾のように裕福な男が望ましい。佳男は増尾をつけ狙うが、返り討ちにされた感じ。

祐一は最後の逮捕される直前のシーンで、光代が普通の生活を送れるように、突き離すつもりで(?)光代の首を締める。ただし本気。

祐一は殺人を犯した。でも人を殺した祐一は本当に悪人なのか。

映画版と小説版の違い

思いつく限り雑然と並べます。

まずは小説にあって映画にはないシーン

  • 佳乃が同僚女性との会話の中で祐一との関係について、映画より露骨に言及。
  • 佳乃が殺された一報が入った際の同僚女性や上司たちの描写など。
  • 祐一とつきあっていた(?)風俗で働く女性、美保が登場
  • 佳乃と援助交際してた塾講師、林。その他、佳乃が援助交際してたことについて、はっきり描かれていて実家に嫌がらせの FAX が届いているなど。
  • 祐一の数少ない友人、一二三が登場
  • 映画版では光代が双子なことについて言及してたっけ?してたような記憶もあるけど確かではない。映画ではいくらなんでも双子には見えないもんなぁ。
  • 祐一が小さい頃の、母親とのシーン。祐一が母親にお金をせびるに至る過程も描かれているので祐一がどんな人柄か分かる。
  • 映画版では若干影が薄かった鶴田の役割が増えている。*1
  • 「ちくわ」シーン。出会い系サイトで知り合う遥か前、子供の頃に佳乃と祐一が出会っていたと思わせる描写。佳乃と祐一、両方の視点でそれぞれ描かれている。佳乃側のシーンは佳男が増尾に返り討ちにされて意識がなくなるとき。
  • 小説ならではの不吉を暗示する描写が多数みられる。映画版はテンポがいいので不吉なシーンは入れられないと思われる。
  • 逮捕の後日談。祐一の供述のおかげで、光代は徐々に普通の生活を取り戻す。

映画にあって小説にないシーン

  • 祐一が光代にお金を渡すシーンがない。映画を観ていてこれはいくらなんでもないだろと思った。そんな奴と一緒に逃げるか?
  • 光代の妹とつきあっている男性。映画の限られた時間内で、光代の生活が充実してないことを強調したかったのかも。

全体的に

小説版の祐一は口数が少ないだけの普通の青年という印象。映画では何かもっと大事なものが欠けていたようなそんな印象がある。どちらにも共通するのは、頭はそんなに悪そうではないってこと。プログラマすればいいのに。(笑)

両方を鑑賞した後の感想

メディアが違うものを比較するのはナンセンスだけど、映画の方が面白かったかなぁ。何より映画の寂れた農村、漁村、床屋シーンが心に響いた。それは私が田舎に住んでいて共感できたためだと思う。

小説を読んだら映画の最後のシーンは、別の解釈ができなくなっちゃった。どう考えても祐一は善人というか。殺人した善人。まあ不思議な表現なんだけど。

不謹慎なことを承知で書いてしまうと、人を殺すって動物を殺すのと違ってそんなに特殊なことなのかなぁなどと考えてしまいました。ハリウッド映画とか冷酷な殺人鬼だらけ。どんな悪いことしたかよく分からん細かい悪党なんて無表情で淡々と殺していっちゃう。でも、どれだけリアルに書こうとしても、小説や映画では本当の悲惨さは表現できないだろうからなぁ。

おまけ

なんで二冊に分かれてるんだろう。一冊でいいのに。

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(上) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

悪人(下) (朝日文庫)

*1:鶴田は最後にガラスの飾りを割る人。